まず、熱はどうして出るのでしょうか。その機序は大きく2つに分けられます。
ひとつは「うつ熱」。
熱中症や日射病のときのように、外からの熱で体が温められ、しかもうまく下げられないときに熱がこもって起こる体温上昇です。
これは、速やかに下げる必要が あります。
涼しい場所に寝かせ、経口保水液(用意がない場合は水と塩)を与え、保冷剤などを首や脇に下や足の付け根にあて、体をうちわなどであおいで冷やします。
応急処置をしても回復しない場合は、救急車を呼んで下さい。
もうひとつの発熱は、有害なものが体内に侵入したことによって出る熱です。
私たちの体は、 ウイルスや細菌、真菌などの有害な異物が一定量以上入ってくると、血管内皮細胞・単球・マクロファージなどの細胞が伝達物質を出し、脳の体温調節中枢に非常事態を伝え、体温を上げ る仕組みになっています。
具体的には、寒気を感じさせる(衣服を着させる)、筋肉を震わせて体内での熱産生量を増やす、熱を奪う汗の分泌量を減らす、手先・足先の皮膚の血管を収縮 させて熱の放散を減らすなどして体温を上げるのです。
こうして体温を上げるのには理由があって、体温が高いほうが異物を追い出すための免疫機構がうまく働き、風邪を引き起こすようなウイルスは高い温度に弱いためぜす。
つまり、熱は体が ウイルスや病原菌のような有害な異物と戦うために上がるので、むやみに下げてはいけません。
たまに「熱が上がりすぎて頭がおかしくなるのでは」と心配する方もいます。
でも、人体に有害な体温は41.1~43.3℃と言われていて、私たちの体には体温が41℃以上になることを 防ぐ仕組みがあります。
「熱が出たあとに障害が残った人の話を聞いたことがある」と言う方もいるかもしれませんが、それは熱のせいではないでしょう。
ウイルスや細菌によって髄膜炎や脳炎になり、発熱とともに中枢神経に炎症が及んで後遺症が残ったのだと思います。
髄膜炎や脳炎は、風邪による発熱を放っておいたからといってなるものではなく、初めから風邪とは違う病気です。
熱が上がるときは、体温中枢が設定した体温になるまで寒気がします。
お子さんが、寒そうにしているときには温めてあげてください。
でも、熱が上がりきって顔が赤くなり、暑そうに したら温めてはいけません。
たまに汗をかかせて熱を下げようと、お子さんを温めたり、水分をたくさん摂らせようとする方がいますが、汗をかいたら熱が下がって病気が治るのではなく、病気が治ってくると汗をかいて熱が下がるので、順番が逆です。
特に自分で脱ぎ着ができない子は、熱がこもってうつ熱になるかもしれません。
衣類や掛け布団をいつもより少ないくらいにし、嫌がらなければ保冷剤や氷枕などをタオルで包んで、頭や首の後ろに当ててあげましょう。
ちなみに、おでこに貼る冷却シートは体温を下げるわけではなく、気持ちがよくなるだけです。
小さな子どもの場合は、自分で触ってしまって鼻や口をふさぐ窒息事故が報告されているので、保護者の方が目を離す際には取りましょう。
そして、高熱で眠れなかったり、関節痛や筋肉痛があったりするのはつらいもの。
あまりに 食べられない、飲めないという場合には脱水症も心配です。
そんなときは無理をさせないで、解熱頭痛薬を使いましょう。
解熱鎮痛薬を使う目安は、38.5℃以上あってぐったりしているとき、または発熱以外に痛みもあるときと考えてください。
たとえ熱が30℃以上あっても、お子さんが元気だったら使う必要はありません。
解熱鎮痛薬は小児科で処方してもらえますが、薬剤師または登録販売者が対応する薬局で、 市販薬として買うこともできます。
子どもの場合は、最も副作用の少ないアセトアミノフェンのものを選びましょう。
使い方は、シロップだったらそのまま飲ませてください。
粉の場合も同じですが、何かに混ぜて飲ませてもかまいません。
水、ジュース、ゼリー、ゼリー状になっ ているオブラート、アイスクリームなどの普段から好きなものに混ぜるといいでしょう。
坐業の場合は、おむつを替えるときのように子どもを仰向けに寝かせて、両脚をM字に曲げ、 肛門に入れて4~5秒間押さえてから、両足を真っ直ぐ伸ばすと筋肉の動きによって奥に入っ ていきます。
錠剤が飲める子は、多めの水や麦茶などで飲ませましょう。
たまに、解熱頭痛薬を飲ませたのに平熱にならないと心配する方がいますが、少し下がっただけでも体のつらさは軽減するはずです。
お子さんが少しでもラクになったら、効いたと判断してください。
また、効果は数時間で切れますから、再び発熱しても驚かないでください。
4〜6時間あけたら再投与してもかまいません。
でも、1日2回くらいにしておきましょう。
解熱鎮痛薬を保管する際は、直射日光の当たらない涼しい場所に置いてください。
坐薬は、 気温が高いと柔らかくなってしまいます。
薬の効き目は変わりませんが、形が変わると使いにくくなるので冷蔵庫に入れておくのがおすすめです。
保管できる期間は、子どもは成長して体重が増えることで変の適正量が変わるし、使用期限もありますから半年から1年程度です。
それを過ぎたら捨てましょう。
また、きょうだいに処方された薬や、あまりないとは思いますが友達にもらった薬を使うのはやめましょう。
小児科を受診する目安は、熱プラス何かの症状があるときです。
熱はあるけれど、元気だし食欲もあるという場合は必要ありません。
熱とともに発疹がある、鼻水と咳が出てつらい、喉が痛い、目が赤い、機嫌が悪くて眠らないなどというときは小児科に行きましょう。
ただし、 生後6か月までの小さな子は、重大な病気でも症状が現れにくいので、熱だけでも様子をみず に受診してください。
生後6か月以内や様子がおかしい場合は受診を。
それ以外は解熱鎮痛薬を使ってもいいでしょう。
熱が出る主な病気
鼻水や咳と同じように、最も多いのは風邪症候群で、その場合は必要に応じて解熱鎮痛薬を使います。ほかにも以下のような病気の可能性が あるので確認しておきましょう。
突発性発疹
多くが生後6か月以降に発熱が3~5日間続き、解熱後に顔・体幹に赤い発疹が 出る病気です。軽く下痢をすることもありますが発熱だけのことが多く、発疹は痛くもかゆくもなく数日で自然に消えます。 原因のほとんどはヒトヘルペスウイルス6 型。稀に何度かかかることもあります。
<治療>
初めての発熱であることが多く、保護者 の方はとても心配しますが、対症療法しかありません。自然治癒するので、つらそうなときだけ解熱鎮痛薬を使用します。乳児は、離乳食を食べたがらなくなっても母乳や粉ミルクをとれていれば大丈夫です。
尿路感染症
おしっこが作られて体外に出るまでの尿路のどこか(腎盂、尿管、膀胱、尿道)に細菌が入って、炎症が起こる病気です。その多くは大腸菌が原因です。熱以外の症状はあまりないものの、大きい子では頻尿や排尿時痛、残尿感、腹痛などを訴えることがあるので、小児科で相談をして下さい。
<治療>
尿検査で原因菌を調べ、それに効く抗菌薬を内服し、効果がなければ入院して点 滴で投与します。繰り返す尿路感染症は、落ち着いた時期に画像診断で基礎疾患がないかチェックします。予防的に抗菌薬の少量の 内服を長期的に行うこともあります。
気管支炎
肺の手前にある気管支が、ウイルスや細菌によって炎症を起こした状態。鼻か肺までの気道はつながっているので、風邪から気管支炎に移行することも多く、 乾いた咳や痰が絡んだ咳が出て、発熱したり食欲が落ちたりします。数日から数週間で自然に治ることが多いでしょう。
<治療>
ほとんどの場合、ウイルスが原因なので対症療法です。高熱がある場合は、解熱鎮痛薬を使いましょう。咳がひどい場合は、気管支拡張薬や痰を出しやすくする去痰薬が処方される場合もあります。水分を摂って安静にしましょう。
中耳炎
耳の鼓膜の奥にある中耳にウイルスや細菌が入って、炎症を起こす病気です。耳が痛んだり聞こえにくくなったり、熱が出るのが主な症状。中耳炎・副鼻腔炎を繰り返している場合は、中耳腔に分泌物がた まる滲出性中耳炎になっている可能性が あります。耳鼻科か小児科へ。
<治療> 去痰薬が処方されることが多いでしょう。 抗菌薬が出された場合は自己判断で勝手 にやめないようにしましょう。薬の効か ない耐性菌ができてしまうからです。膿が溜まった場合は耳鼻科で鼓膜切開をして出し、滲出性中耳炎が長びく場合はチ ューブを入れて出します。
インフルエンザ
急な高熱、頭痛や体の痛み、鼻水や咳などの上気道症状、嘔吐や下痢などの消化器症状、だるさを起こすインフルエンザウイルスによる感染症。感染者のくしゃみや咳の飛沫からうつり、潜伏期間1~3日で発症するのが特徴です。毎年11~3月くら いに流行します。
<治療>
流行状況と臨床症状から、または迅速診断キットで診断します。抗インフルエンザ薬を使う場合もありますが、対症療法のみのこともあります。解熱鎮痛薬、去痰薬や鎮咳薬、整腸剤の内服をしますが、最も大事な のは安静と水分補給です。
ヘルパンギーナ
喉の痛みと高熱が特徴の夏風邪の一種。 エンテロウイルス(コクサッキーウイルス やエコーウイルスなど)が原因です。熱は 2~3日で下がりますが、喉の奥が赤くな り水疱や潰瘍ができるため、赤ちゃんは よだれが増えて哺乳量が減り、大きい子でも機嫌が悪くなり食欲が落ちます。
<治療>
自然治癒しますが、つらい場合は解熱鎮痛薬を使います。喉が痛いので、口当たり のよい食品を与えましょう。食事を嫌がったら水分を摂らせます。乳児の場合、一 時的に離乳食をやめて母乳や粉ミルクだけになってもかまいません。
溶連菌感染症
A群溶血性連鎖球菌が、咽頭や扁桃など 炎症を起こす感染症。発熱、喉の痛みや腫れ、体の発赤疹、舌がイチゴのように赤くなる「苺舌」が特徴です。解熱して発疹が 消えた頃、手足の先の皮がむけることがあります。抗菌薬を飲み始めて24時間後、 解熱するまでは出席停止です。
<治療> 診断は臨床症状から、または迅速診断キ ットや培養検査で行います。治療は、解熱鎮痛薬と抗菌薬。リウマチ熱や急性糸球体腎炎になる恐れがあるので、抗菌薬は指定された日数分内服し、途中でやめな いことが重要です。
咽頭結膜熱(プール熱)
アデノウイルス3型などによる夏風邪の 一種。発熱、喉の腫れや痛み、目の充血・ 痛み・かゆみ、目やにが主症状です。腹痛や下痢があることも。水を介してうつる ことがあるためプール熱と呼ばれますが、 プールに行かなくてもかかります。熱は 4~5日で下がり、自然治癒します。
<治療>
臨床症状、または迅速診断キットで診断します。治療は、必要に応じて解熱鎮痛薬を使うのみ。口当たりのいい食事を与えること、こまめに水分補給をすることが大切です。唾や便からウイルスが出るので手洗いで感染を予防しましょう。
手足口病
夏に多いエンテロウイルス(コクサッキー ウイルスやエコーウイルス)によって起こ る感染症。飛沫感染や便から出たウイルスが経口感染することでうつります。発 熱、手足と喉・口の周囲に小さな水疱ができるのが特徴。熱は1~3日程度で下がり、水痕も7日程度で消えます。
<治療>
ほかの自然治癒する感染症と同様、治療 は必要に応じて解熱鎮痛薬を使い、刺激 の少ない食事をあげること、水分補給が 大切です。唾からは1週間程度しかウイル スが出ませんが、便からは数週間排出されるので感染しないよう要注意。
流行性耳下腺炎(おたふく風邪)
ムンプスウイルスによる感染症。潜伏期間は2~3週間。耳の下にある耳下腺の 片方か両方が腫れて痛くなり、約半数が 発熱します。多くは10日程度で治ります が、合併症として髄膜炎や難聴、精巣炎や 卵巣炎が起こることがあります。様子が おかしい場合は電話をしてから小児科へ。
<治療>
必要に応じて解熱鎮痛薬を使うしかありません。食欲が落ちることが多いので、軟 らかく刺激の少ないものを食べさせましょう。腫れてから5日が経過し、全身状態 がよくなるまで出席停止です。
水痘(水ぼうそう)
水ウイルスによる感染症。 潜伏期間は約2~3週間で、発熱は軽く、 発疹が半日~1日で全身に広がります。丘 疹、水疱、膿疱、かさぶたのいろいろな段階の発疹が混在するのが特徴で、頭皮、口の中や目の粘膜にできることもあります。必ず病院に電話してから受診しましょう。
<治療>
発症から2日以内に抗ウイルス薬を内服すると、発疹の数が少なくてすみます。か ゆい場合は軟膏を塗りましょう。すべてがかさぶたになるまで出席停止です。現 在は定期予防接種になっているので、必ずワクチンを打ってください。
肺炎
病原性微生物が肺で炎症を起こしたもの。 大きく分けてウイルス性、マイコプラズマ、細菌性の肺炎があります。どれも風邪以上に長く38℃以上の発熱、咳、鼻水が続 き、ひどくなると呼吸が浅くなったり、胸が痛くなったり、激しい咳のために眠れな くなったりするので小児科へ。
<治療>
ウイルス性は対症療法で水分補給、鼻水 の吸引、解熱鎮痛薬、去痰薬や鎮咳薬の投 与や吸入を行います。マイコプラズマ肺炎や細菌性肺炎は、それに加えて抗菌薬 の内服をします。重症の場合は入院し、酸素吸入やステロイド投与をすることもあります。
川崎病
原因不明の全身の血管炎。40℃近い高熱、 手足の先の腫れ、目の充血、首のリンパ節の腫れ、唇と舌の発赤、胸やお腹の発疹という6つの症状が特徴です。うつる病気ではありませんが、合併症として心臓の冠動脈に動脈瘤ができることがあるため、疑ったら早く病院の小児科を受診しましょう。
<治療>
近年、症状が揃わない不全形が増加して います。疑わしい場合は入院して血液検査と心臓のエコーを行います。アスピリ ンの内服と大量ガンマグロブリン療法を 行い、ほかに炎症を抑える治療を加えることもあります。
風疹(三日はしか)
風疹ウイルスによる感染症。潜伏期間は 2~3週間で、飛沫・接触感染すると熱と細かい発疹が全身に出ます。ときに関節炎、血小板減少性紫斑病、急性脳症といった合併症が起こることもあります。また、妊娠中に 風疹になると、胎児が先天性風疹症候群になる危険性があります。
<治療>
解熱鎮痛薬を使うなどの対症療法のみ。 発疹が完全に消えるまで出席停止です。 1979年4月以前生まれの男性はワクチン 接種歴がなく、1990~2006年生まれの男女は1回接種のみ。ワクチンは必ず接種しましょう。
髄膜炎
脳や脊髄を覆う髄膜に炎症を起こす疾患。 ウイルス性はエンテロウイルスによるものが多く、高熱、嘔吐、頭痛があります。 細菌性は、加えて意識障害やけいれんを起こすことが多く、治療が遅れると命に関わります。ぐったりしていたり、意識がなかったりしたら急いで病院の小児科へ。
<治療>
血液検査や腰に針を刺して髄液を取る髄液検査などで診断します。ウイルス性は解熱鎮痛薬などの対症療法を、細菌性は入院し て髄液中の細菌を特定して抗菌薬投与を 行います。ヒブワクチン、肺炎球菌ワクチンの接種が予防につながります。
ましん 麻疹(はしか)
麻疹ウイルスによる感染症。感染力が非常 に強く、潜伏期間は10日前後。初めは発熱と風邪のような症状で熱はいったん下がりますが、次に口の中に白い発疹が出て熱が 再び上がり、体中に発赤疹が出ます。適切 な治療をしても1000人に1~2人亡くなる 病気です。必ず病院に電話してから受診をして下さい。
<治療>
対症療法しかないため、水分補給をしな がら解熱鎮痛薬を使い、肺炎・中耳炎・ 脳炎などの合併症がある場合はその治療を行います。1割程度は入院となり、通常 10日程度で回復しますが、解熱後3日まで 出席停止です。外出も控えてください。
ネルソン小児科教科書、第 18 版、サンダース、2007 年
森戸やすみ.小児科医ママの子どもの病気とホームケアBOOK.内外出版社.2018
稲毛康司.これだけは知っておきたい子どもの病気と薬の知識.法研.2007
体調不良の時も
大人は
子どものアタッチメントの基地
子どものアタッチメントの砦